au Starlink Direct 「空が見えれば、どこでもつながる。」をどう実現したのか KDDIとSpaceXの挑戦

au Starlink Directの登場で、これまで圏外だった山間部や離島、海上でも当たり前につながる時代が始まっています。2025年4月、KDDIはSpaceXとともに、衛星とauスマートフォンが直接通信するサービス「au Starlink Direct」をアジアで初めて*1開始しました。「空が見えれば、どこでもつながる。」――その言葉はどのようにして現実になったのでしょうか。その背景には、「どこでもつながる安心を届けたい」という思いと、KDDIが長年にわたって培ってきた衛星通信の歴史と技術があります。SpaceXとの協業を主導し、プロジェクトの最前線を走る3人に話を聞きました。

KDDI 先端技術統括本部 先端技術企画本部 福井 裕介。国内制度化・国際標準化を推進 KDDI グロース事業開発本部 グロースビジネス企画1部 西林 武範。SpaceXとのビジネス交渉と事業推進を担う KDDI 技術企画本部 技術企画部 志田 裕紀。スマートフォンと衛星をつなぐ技術をリード
KDDI 先端技術統括本部 先端技術企画本部 福井 裕介 国内制度化・国際標準化を推進
KDDI グロース事業開発本部 グロースビジネス企画1部 西林 武範 SpaceXとのビジネス交渉と事業推進を担う
KDDI 技術企画本部 技術企画部 志田 裕紀 スマートフォンと衛星をつなぐ技術の実装をリード

なぜ「圏外をなくす」挑戦が始まったのか 衛星通信の歴史とStarlinkとの出会い

――そもそも、なぜKDDIはStarlinkに着目したのでしょうか。

福井 もともとKDDIでは、前身であるKDD時代から衛星通信に関わってきたという歴史があります。1969年に開所した山口衛星通信所でのアポロ11号の月面着陸の放映など、KDDIは日本の国際衛星通信を長年支えてきました。私自身も2008年の入社当時から衛星通信グループに所属し、当時グループリーダーを務めていた河合さん(現・KDDI顧問。ITUの国際会議で議長も務めてきた、衛星通信分野の第一人者)とともに、ITU(国際電気通信連合)に関わる活動や、衛星通信に関する制度・技術検討に携わってきました。

KDDIの衛星通信の歴史
KDDIの衛星通信の歴史

――当時の衛星通信は、現在とは位置づけが違っていたのでしょうか。

福井 はい、当時は現在のように「スマートフォンと衛星が直接つながる」世界ではなく、主に離島、海上、山間部や災害時など、地上ネットワークだけでは通信が届きにくい場所を支える技術として活用されていました。山口衛星通信所を通じた国際衛星通信や、災害時に船舶経由で陸地へ通信を提供する取り組みなど、通信を途切れさせないための技術として、長年当社が向き合ってきた領域でもあります。

当時は、衛星通信が一般の方向けに広く普及するという発想はなく、主に地上ネットワークを補完する技術として捉えられていました。そうした中で現れたのが、SpaceX社の衛星通信サービス「Starlink」です。

尾瀬の山小屋に設置されたStarlinkアンテナ
尾瀬の山小屋に設置されたStarlinkアンテナ

福井 取り組みの大きなきっかけとなったのは、ITU(国際電気通信連合)の国際会議の場で、SpaceXの担当者と出会ったことでした。当時はまだロケットの打ち上げを重ねている段階で、このサービスが本当に実現できるのか、世界中が見守っている段階でしたが、打ち上げが次々と成功し始める中で、そのポテンシャルが一気に現実味を帯びてきており、当社は他社に先駆け、2021年からSpaceXと業務提携を開始しています。

従来の静止衛星は、地球から約3万6,000kmという遥か彼方の軌道を周回しています。一方、Starlinkのような低軌道衛星は、高度約550kmという静止衛星の「65分の1」の低さを飛行していることから、地上との距離が圧倒的に近く、大容量・低遅延の通信が可能です。

志田 技術の視点から見ても、日本の人口カバー率(人が住んでいる場所での通信エリア)はすでに99.9%に達していますが、人の住んでいない山間部や離島なども含めた「面積」で見ると、実はまだ約6割にとどまっています。この残りの4割のエリアを地上局だけでカバーしようとすると、莫大なコストと途方もない年月が必要になりますが、それを「宇宙の衛星から一気にすべてカバーしてしまおう」というSpaceX社の発想は、非常に大きなインパクトがありました。

福井 そうした発想を受けて、KDDIではまず、山口衛星通信所での検証を重ねながら、Starlinkの技術をどのように生かすかという議論が進められていきました。

KDDI 山口衛星通信所
KDDI 山口衛星通信所

福井 その過程で、Starlinkをau基地局のバックホール回線として活用する取り組みも始まり、地上ネットワークの補完として実用化が進んでいきます。
山間部や離島など、これまで光回線の敷設が難しかったエリアでも、より大容量かつ低遅延で通信を届けることが可能となり、ネットワーク品質の向上につながっていきました。
さらにその先として、「圏外でもつながる環境をスマートフォンで実現できるのではないか」という発想が具体化します。

2024年3月 MWCバルセロナ会場と南極との8K映像リアルタイム伝送に成功
2024年3月 MWCバルセロナ会場と南極との8K映像リアルタイム伝送に成功
Starlinkをバックホール回線として利用
Starlinkをバックホール回線として利用

志田 画期的だったのは、お客さまが専用の機材やアンテナを一切必要としない技術が利用できるようになった点です。普段使っているスマートフォンが、そのまま衛星とつながる。――やがてこの取り組みは「au Starlink Direct」として形になっていきます。
この技術によって、これまでつながらなかった山間部や離島、災害時といった場面でも通信を届けられる可能性が一気に広がりました。

福井 その可能性を受けて、「これはKDDIとして本気で取り組むべきだ」「どこでもつながる安心を届けたい」という思いが社内で広がっていきました。

志田 そうしたKDDIの思いと、SpaceXの持つ技術と発想が重なり合ったことで、この取り組みは本格的に動き出していきました。SpaceXとの二人三脚での挑戦が始まり、「au Starlink Direct」サービスの実現に向けた取り組みが加速していきます。

「圏外をなくす」 実現に向けて動き出したプロジェクト

志田 当時を振り返って最も印象に残っているのは、まだ本当につながるかどうかも分からない段階で、プロジェクトが走り始めていたことです。

ちょうど世界でもスマートフォンと衛星の直接通信に向けた動きが出始め、SpaceX側の技術も現実味を帯びつつあるタイミングでしたが、まだ技術的に実現可能性を見極めている段階でした。そのような中、2024年内のサービス開始を目指して、プロジェクトが本格的に動き出しました。
それは、山間部や離島、災害時など、つながらない状況を少しでも早くなくしたい。
その強い思いのもと、限られた時間の中でプロジェクトは一気に加速しました。残された期間は、およそ1年半。
見えない部分も多いが、それでも前に進むしかない。そんな状況でした。

プロジェクトの始動をきっかけに、技術、制度、電波、端末、事業、運用といった各領域のメンバーが、それぞれの専門を持ち寄りながら、一つの目標に向かって一気に走り出したと感じています。

目指したのは、単に新しい通信技術を実現することではなく、山間部や離島、海上、そして災害時など、これまで通信が届きにくかった場所や状況でも、つながる安心を届ける挑戦です。
誰もが必要な時に人とつながり、情報にアクセスできる社会が実現できる。その可能性が見えたからこそ、多くのメンバーが同じ方向を向いて走り始めたのだと思います。

「圏外をなくす」ために乗り越えるべき壁

――プロジェクトが進む中、それぞれの現場では、どのような課題があったのでしょうか。

西林 私のミッションは、SpaceXとのビジネス交渉と社内の意思決定を両輪で推進することでした。過去史上最大のIPOを実現し、世界的な注目を集めるSpaceXとの協業は、従来の日本的な常識や慣習が通用しない挑戦の連続でした。提示される経済条件の見直しや再提案など矢継ぎ早に情報がアップデートされる中、私たちも同じスピードで意思決定と変革を重ねることが求められました。
新たな価値を社会に届けるため、社内外の多様なステークホルダーを巻き込みながら事業構造の見直しを進め、サービスの実現に向けた土台を築いていきました。

KDDI グロース事業開発本部 グロースビジネス企画1部 西林 武範
KDDI グロース事業開発本部 グロースビジネス企画1部 西林 武範

志田 技術面において慎重に検討したのは、「地上のauの通信品質にいかに影響を出さないか」という点でした。au Starlink Directでは、普段スマートフォンでお客さまが利用している周波数を上空から飛ばすため、「既存の電波との共存をどう実現するか」が課題でした。地上の通信は、お客さまの日常を支える絶対的な基盤です。そこに影響を出さないことは、絶対に守らなければならない。そのため、理論的なシミュレーションだけでなく、実際に現地での検証や電波測定を重ねながら、安心して使える品質を確保していきました。

KDDI 技術企画本部 技術企画部 志田 裕紀
KDDI 技術企画本部 技術企画部 志田 裕紀
直接通信サービスの仕組み
直接通信サービスの仕組み

志田 さらに、SpaceXの「まずは最低限の機能でいち早く世に出し、走りながら改善を重ねていく」という考え方は、KDDIがこれまで大切にしてきた「いつでも、どこでも、途切れさせない」通信品質へのこだわりとは異なる部分もありました。だからこそ私たちは、新しいサービスを早く届けることと、通信事業者として守るべき品質を両立させる必要がありました。

その中で整理されたのが、au Starlink Directは「地上の通信を置き換えるもの」ではなく、「いざという時に、地上の通信を補完するもの」という考え方です。

衛星通信である以上、地上ネットワークとまったく同じ品質や利用感を前提にするのではなく、その特性や役割を丁寧に説明する。そのうえで、最低限守るべき品質は確実に担保し、改善できる部分は運用を通じて高めていく。こうした考え方を整理できたことで、圏外でもつながる環境をより早く実現し、いざというときの通信手段の一つとしての役割を果たせるようになったのです。

 圏外エリアで空が見える状況であれば、Starlink衛星と自動的に接続。画面右上のステータスバーが「圏外」から衛星のピクトに切り替わる(機種によって表示方法は異なります)
圏外エリアで空が見える状況であれば、Starlink衛星と自動的に接続。画面右上のステータスバーが「圏外」から衛星のピクトに切り替わる(機種によって表示方法は異なります)
さまざまな場所でデモが行われた
さまざまな場所でデモが行われた

――福井さんが担当する「制度設計」の領域では、いかがでしょうか。

福井 制度についても、まったく新しい挑戦が必要でした。
通常は、国際的なルールが世界無線会議で決まり、それをベースに国内制度を整備していきますが、今回はその逆で、国内で先に整備したルールを国際的なルールとする必要があります。

国際的なルール改定は、4年に1回しか行われないため、そのタイミングを待っていては、サービスの実現が大きく遅れてしまいます。そのため、世界無線会議(ITU-R)での議題化に向けた働きかけなど、国を巻き込んだ交渉を進めることで、早期のサービス開始を実現していきました。

KDDI 先端技術統括本部 先端技術企画本部 福井 裕介
KDDI 先端技術統括本部 先端技術企画本部 福井 裕介

福井 また、日本国内においても、私たちの使う周波数の隣の帯域を使っている事業者さまに影響が出ないよう、様々な関係機関・企業との調整が必要でした。衛星から地上に電波を届ける以上、既存の通信への影響を極限まで抑える必要があります。そのため、技術的なシミュレーションだけでなく、関係機関・企業と直接対話を重ね、一つひとつ課題を解決していきました。そうした積み重ねや関係機関・企業のご協力があったからこそ、1年半という限られた期間の中で、いち早くau Starlink Directのサービスを提供できる環境を整えることができました。

2024年10月 Starlink衛星とauスマートフォンの直接通信の実証を沖縄県・久米島で実証
2024年10月 Starlink衛星とauスマートフォンの直接通信の実証を沖縄県・久米島で実証

「どんな社会を実現したいのか」 視座を変えたSpaceXからの問い

西林 SpaceXとの連携を通じて、今でも強く印象に残っている出来事があります。
厳しい事業交渉が続き、予算やスケジュール、社内調整など、目の前の課題に向き合う日々の中で、SpaceXの担当者からふとこんな問いを投げかけられました。

「あなたの孫が生まれるころ、Starlinkによってどのような社会になっていてほしいですか?」

それは単なるビジネスの話ではなく、「人々の命や安心を支える通信とは何か」を問いかけるものでした。
その瞬間、この取り組みは単なるサービス開発や契約交渉ではなく、未来の社会インフラを共に創る挑戦なのだと認識が変わりました。
目先の条件や課題を乗り越えることはもちろん重要ですが、その先にある社会の姿を共有できたことこそが、プロジェクトを前進させる原動力だったと強く感じます。

SpaceXの担当者と西林(フロリダ ケネディ宇宙センター)
SpaceXの担当者と西林(フロリダ ケネディ宇宙センター)

西林 日本は災害も多く、通信が途切れることで不安や危険に直面する場面も少なくありません。だからこそ、いざという時にもつながる環境をつくることには、大きな意味がある。目の前の課題だけでなく、「何のためにやるのか」という視点に立ち返ることができた瞬間だったと感じています。

当社のビジョンには「つなぐチカラを進化させる」という言葉があります。私を含む本プロジェクトのメンバー一人ひとりが、「au Starlink Directが生み出す新たな価値」を本気で描き、夢中に取り組んでいました。あのSpaceX側から届いた「情熱の伝播」とも言える高い視座の問いかけが、私自身の最大の原動力になったことは間違いありません。

令和6年能登半島地震において合計700台のStarlinkを避難所などに提供
令和6年能登半島地震において合計700台のStarlinkを避難所などに提供
避難所の閉所にあたり残されていた感謝のメッセージ
避難所の閉所にあたり残されていた感謝のメッセージ

――そうした思いを会社全体の取り組みとして前に進めるうえで、どのような体制や推進力があったのでしょうか。

志田 プロジェクトの推進力となったのは、関係する部門が同じ場所に集まり、すぐに意思決定と実行ができる環境があったことだと感じています。当時は100人規模のプロジェクトとなっていました。その中でも、制度、衛星、ネットワーク、端末の企画部門などが同じフロアに集結しており、何か課題が見つかれば、その場で声をかけて議論し、すぐに方向性をそろえて動き出すことができる。そうした環境が、プロジェクトを前に進める大きな力になっていました。

西林 このプロジェクトの成功を支えたのは、「つながる安心を、より多くの人へ届けたい」という共通の想いだったと思います。
一般的に通信会社は安定したインフラ企業という印象を持たれがちですが、私たちの中には「新しいことに挑戦し続けることこそが、結果として安定につながる」という考え方があります。
変化を恐れず、新しい価値の創造に挑み続ける。その姿勢を部門横断で体現できたことこそが、このプロジェクトを大きく前進させた核心だったと感じています。

2025年4月10日、au Starlink Directのサービス開始を発表
2025年4月10日、au Starlink Directのサービス開始を発表
SpaceXからも日本でのサービス実現に対し喜びの声が寄せられた
SpaceXからも日本でのサービス実現に対し喜びの声が寄せられた
2026年6月 SpaceX IPO時に投資家向けに正式配布された「Roadshow Presentation」の一部(重要なパートナーとしてKDDIが明記されている)
2026年6月 SpaceX IPO時に投資家向けに正式配布された「Roadshow Presentation」の一部(重要なパートナーとしてKDDIが明記されている)

「どこでもつながる」その先へ 広がる通信の可能性

――今後はどのような未来を描いているのでしょうか。

西林 「空が見えれば、どこでもつながる」というこの世界は、ゴールではなく新たなスタートだと捉えています。
これからは、その通信基盤を生かし、さまざまな場面で“つながる”ことが生み出す価値そのものを広げていきたいと考えています。
例えば、IoTの領域では、山間部や遠隔地にある設備やインフラの状況を、現地に行かなくても把握できるようになります。これまで人が行かなければ確認できなかったことが、場所にとらわれずに管理できるようになることで、社会のさまざまな仕組みが変わっていきます。また、海外においても、空が見える場所であればそのままスマートフォンがつながるなど、場所や国境にとらわれない通信の体験も広がりつつあります。
このように、衛星通信はこれまでの「一部を補う技術」から、社会の基盤を支えるインフラへと進化しつつあります。

2026年4月「au Starlink Direct」に関する説明会で発表された3つの挑戦についてはこちら

西林 私たちが目指しているのは、単に通信できるエリアを広げることではありません。山間部や離島、海上といった場所、そして災害時のように通信が必要とされる場面でも、人と人がつながり、必要な情報にアクセスできる安心を届けることです。
日常を支え、いざという時には安心を届ける。
そのために私たちは、これからも「圏外をなくす」という挑戦を続けていきます。

au Starlink Directは一歩先の未来へ。
日常を支え、いざという時には安心を届ける。
お客さまや社会のために、「つなぐチカラ」を進化させ続けるというKDDIの挑戦です。

*1:アジア通信キャリアによる提供サービス(2025年4月10日提供開始)として、KDDI調べ

 

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